大阪高等裁判所 昭和57年(ネ)2435号 判決
【当事者】
控訴人
中村ちゑ
控訴人
谷村陸志郎
右両名訴訟代理人弁護士
樺島正法
同中道武美
同近森土雄
【主文】
一 原判決を次のとおり変更する。
二 控訴人らと被控訴人との間で昭和五三年二月二五日締結された原判決別紙物件目録記載の土地についての売買仮契約に基づく控訴人らの被控訴人に対する手付金二〇〇〇万円の返還債務は、被控訴人から本判決別紙物件目録記載(一)ないし(三)の土地を右仮契約締結時の状態において引渡を受けるのと引換でなければ、その履行義務が存在しないことを確認する。
三 控訴人らのその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は第一、二審を通じこれを三分し、その一を控訴人らの、その余を被控訴人の各負担とする。
【事実】
「一 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(一) 原判決を取り消す。
(二) 控訴人らと被控訴人との間で昭和五三年二月二五日締結された原判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)についての売買仮契約に基づく控訴人らの被控訴人に対する手付金二〇〇〇万円の返還債務の存在しないことを確認する。
(三) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」
【理由】
一当裁判所も、本件仮契約は議会の承認が得られなかつたため無効となつたものと判断する。その理由は、原判決六枚目裏一一行目と同一二行目の間に「そして、右仮契約が議会の承認を得なければその効力を生じえないものであることは、被控訴人主張のとおり、その挙示する地方自治法、同法施行令、八鹿町条例中の該当法条によつて明らかである。」を挿入するほか、同判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。控訴人らの当審立証をもつてしても右判断を左右しない。
そこで、この点に関する控訴人らの当審主張(一)について判断するに、本件仮契約について議会の承認は、これによつて始めて地方公共団体の長にその行為をなす権限を生ずる法定の要件にして、かつ、公益上の必要に基づく不可欠な効力要件であり、民法一二七条以下に所定の条件に該当するものとは解しえないから、これについて同法一三〇条を類推適用する余地はなく、したがつて右主張はそれ自体失当というべきである。のみならず、被控訴人の町長である森木が故意に右要件の成就を妨げたことを認めるに足りる証拠もないから、いずれにせよ右主張は採用するに由ない。
二次に、控訴人らの当審主張(二)について判断する。
<証拠>によると、被控訴人は控訴人ら所有の本件土地のうち、本件被控訴人占有地を占有使用していることが認められ、また、<証拠>によると、本件被控訴人占有地のうち(三)の土地は、本件仮契約の対象となつた土地の一部であることが認められ、これら認定に反する証拠はない。
しかしながら、たとえ被控訴人が右(三)の土地を占有しているとしても、これがために被控訴人が本件仮契約の無効を主張できないものと解することはできない。右占有は本件仮契約が無効になつたことによつて被控訴人について生ずべき原状回復義務の対象として考慮すべきものであつて、右仮契約を無効とするについての障害と解すべき理由はない。
したがつて、右主張は採用できない。
三次に、控訴人らの当審主張(三)の(1)について判断する。
<証拠>によると、被控訴人は昭和五一年九月台風で被害を受けた旧舞狂橋に代わるものとして新舞狂橋を円山川に架設するため、その用地の一部を所有している控訴人らからこれを早急に買い受けるべく、控訴人らに再三懇請のうえ、同人らとの間にとりあえず本件仮契約を締結した事実が認められ、この認定に抵触する証拠はない。
しかしながら、本件仮契約の締結に至つた事情が右認定のとおりであるとしても、このために被控訴人が右仮契約失効後控訴人らに手付金の返還を求めることが信義則に反するものとは解し難いところである。
したがつて、右主張も採用の限りでない。
四次に、控訴人らの当審主張(三)の(2)について判断する。
<証拠>によると、被控訴人は控訴人らと本件仮契約を締結した昭和五三年二月二五日右仮契約の対象地の一部である本件被控訴人占有地中(三)の土地を被控訴人が円山川に新たに架設する新舞狂橋の左岸取付町道の一部及び同橋脚敷地とするため控訴人谷村の起工承諾を得て、間もなく右工事に着手し、同年中に右工事を完了して同年一二月には道路・橋梁の供用開始を公示することにより、じ来右(三)の土地を占有使用するとともに、右橋梁の橋桁をもつて控訴人ら所有の本件被控訴人占有地中(一)、(二)の土地の上方空間をも占有している事実が認められ、この認定に抵触する証拠はない。
ところで、<証拠>によると、前記認定の起工承諾は、本件仮契約が議会の承認を得て有効に成立するまで前記架橋工事の着工を遅らせることができないため、右議会の承認のあることを前提とするもので、本件仮契約とは不可分一体のものとして扱われており、本件仮契約について議会の承認のないときは、当然失効することが合意されていたものと認めることができる。
被控訴人は、被控訴人が本件被控訴人占有地を占有使用するのは、本件仮契約とは別個の法律関係によるものであるから、右仮契約が失効したのちも、右土地を占有使用するについてなんら支障はない旨主張する。しかし、<証拠>によると、次の事実が認められる。
1 控訴人谷村及び中村弁蔵は昭和四三年六月一七日三一一番二、三一二番一、二、三一三番一、二、三一四番二の六筆の土地について兵庫県が円山川の堤防工事を施行するについてその用地として同県に対しこれを売却しようとしたが、その所有権に異議を言う者が出たほか代金についても折り合いがつかなかつたことなどから売買契約が成立するに至らなかつた。
2 兵庫県では右工事が急を要するところから、控訴人谷村及び中村弁蔵の起工承諾を得て右工事に着手し、更に昭和四五年八月二五日控訴人谷村から三一四番二を含む八筆の土地につき後日同人らからこれを買い受けることとしてその起工承諾を得て右工事の範囲を拡大してこれを施行し、その後右工事を完了したが、少なくとも三一三番一、二、三一四番二の各土地についてはその売買契約が締結されないまま現在に至つている。
3 被控訴人は新舞狂橋の架設工事を施工するについては円山川の河川管理者である兵庫県八鹿土木事務所長から工事の許可を得たほか、控訴人谷村から三一四番二の土地について起工承諾を得て右工事に着手し、その後右工事を完了した結果、現に本件被控訴人占有地中、(三)の土地については取付町道の一部及び橋脚敷地として、(一)、(二)の土地については橋桁下の用地としてそれぞれこれらを占有している。
以上の事実が認められるのであつて、この事実によると、被控訴人の本件被控訴人占有地の占有使用はいずれも本件仮契約と不可分一体の関係にある控訴人谷村の起工承諾に基づいてこれをなしているというべきであつて、被控訴人主張のように本件仮契約とは別個の法律関係によるものとは認められず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠もないから、右主張は採用できない。
ところで、本件被控訴人占有地中(三)の土地は本件仮契約の対象地の一部であるから、これに対する控訴人谷村の起工承諾に基づく右土地の占有は右仮契約に基づく占有ということができるが、本件被控訴人占有地中(一)、(二)の土地は本件仮契約の対象地でないから、右起工承諾に基づく右土地の占有は右仮契約に基づく占有といえるか否かについては疑義があるので検討するに、右(三)の土地を取付町道及び橋脚敷地とした新舞狂橋の架設工事はその橋脚上に懸架された橋桁が必然的に右(一)、(二)の土地の上方空間を占有するものであることは自明の理であり、そうとすれば、本件仮契約及び起工承諾の中には右(一)、(二)の土地がことさら明示されなくても、右仮契約及び起工承諾による新舞狂橋の架設工事に伴う右(一)、(二)の土地上方空間の占有によつて生ずる右土地の占有も本件仮契約に基因するものというべきである。
そうすると、本件仮契約が失効することによつて、その原状回復として控訴人らは被控訴人に対し本件手付金を返還すべき義務を負うとともに、被控訴人は控訴人らに対し本件被控訴人占有地を仮契約締結時の状態において引き渡すべき義務を負担するものであり、しかも右両義務は、衡平の原則に照らし民法五四六条を類推適用し同時履行の関係にあるものと解するのを相当とすべきところ、控訴人らは同時履行の主張をしていることが明らかであるから、控訴人らの本主張は理由があるものというべきである。
五してみると、本件仮契約に基づく控訴人らの被控訴人に対する本件手付金の返還債務は、被控訴人から本件被控訴人占有地を仮契約締結時の状態で引渡を受けるのと引換でなければ、その履行義務は存在しないのであるから、控訴人らの本訴請求は右履行義務の不存在確認を求める限度で理由があるものとして認容し、その余は失当として棄却すべきである。
六よつて、右判断と一部異なり控訴人らの本訴請求をすべて棄却した原判決は右異なる限度で不当であるから、これを右のとおり変更<する。>
(石井 玄 高田政彦 辻 忠雄)